alhikma’s blog

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『マッキンダーの地政学』—日本人に欠けている地政学的思考—

版元ドットコムより

1.そもそも地政学とは?

 地政学とは国の特性や政策を地理的な要素から研究する学問の事です。

 例えば中国が日本にとって地球の裏側に有ったとしたら、そもそも日本の政策に中国が関係してくる事は有りません。

 そのように単なる国際政治の理論だけではなく、地理的な要素、地図から考える側面を重視した学問が地政学です。

 

2.『マッキンダー地政学』とは?

 『マッキンダー地政学』とはイギリスの地理学者、政治学者であるマッキンダー(1861~1947)が著した書物です。

 マッキンダーユーラシア大陸の中核部分、簡単に言えば現在のロシア辺りをハートランドと名付け、「東欧を支配する者ハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島(ユーラシア大陸とアフリカ大陸)を制し、世界島を支配する者は世界を制する」という言葉を残した事で有名です。

 このハートランドの概念がマッキンダーの思想の上澄み部分部分です。

 

3.マッキンダーの立ち位置

 マッキンダーランドパワーの概念を提唱した地政学者として有名です。ランドパワーとは大陸国家が持つ力の事です。この力は例えば陸上輸送能力、エネルギー資源、食糧生産など様々な概念が含まれています。

 対義語のシーパワーは海洋国家の事を指し、日本、イギリスなどを思い浮かべれば分かりやすいと思います。また、地政学上ではアメリカも海洋国家として扱われます。

 マッキンダーは歴史をこのランドパワーとシーパワーの闘争の歴史だと考えました。

 マッキンダーランドパワー論を説いたのは、マッキンダーの問題意識が関係しています。ハートランド理論、つまりロシア辺りを抑えた国が世界を制するという思想は、しかしイギリス生まれのマッキンダーには厳しい現実でした。そこでマッキンダーはどのように大陸国家から海洋国家イギリスを守るかという事に焦点を当てていくのです。

 

4.東欧への注目/結論

 ロシア辺りの地域を中心とするランドパワーの興隆に危機感をマッキンダーが抱いてた事は既に述べました。その延長線上にマッキンダーは東欧と西欧との対立にも目を向けました。

 そもそも、西欧の人たちが他国の干渉を受けることなく、暮らしてきたのとのは根本的に事情が違っており、東欧の人はロシア、ドイツ、オーストリアの影響などを受ける環境下に有りました。その具体例としてロシアが東欧やバルカン半島などに干渉していた、ハンガリー革命、クリミア戦争、ロシア=トルコ戦争などが有ります。こうした事から東欧は西洋の一部であると同時にハートランドの一部であるとみなしました。

 そして東欧と西欧との間の境界線はドイツ国内を通過しているとしました。

 つまり、東欧がハートランドランドパワーの国の支配下に置かれてしまえば西欧の国々にとってはとても危険であると考えたのです。マッキンダー的に言えば「一旦どこかの国が東欧およびハートランドの資源と人的資源を組織しようと試みた場合、西欧の島国とその半島に属する国々とは、事のいかんに関わらず、これに対抗する必要に迫られる。」という心構えが西欧の中には生まれていました、この点に関して、19~20世紀の百年余りのイギリス・フランス両国の政策はほぼ一貫性を保ってきたと言えます。

 

 イギリスの例を挙げます。

 ロシアは既にハートランドのほとんどを手に収めていました。そうしたロシアが次に出る行動はハートランドの外柄に出ていく事だと予測されます。

 ロシアが外に出られるのはヨーロッパ方面では黒海のボスフォラス、ダーダネルス海峡を通ってのルートでした。その結果ロシアVSトルコ、イギリス、フランス、サルデーニャ王国などの戦いであるクリミア戦争が起きます。

 他にロシアのルートとしてはアフガニスタンを通ってのルート、それから中国、日本などのアジアのルートが有ります。これらのルートの争いの為に、イギリスの動きはアフガン戦争や日英同盟に繋がっていくのです。

 まさしくマッキンダーが考えた通りの争いの構図ですね。

 

 マッキンダーは「過去の大戦争は、ことごとくヨーロッパの国際組織のなかで、ある特定の一国だけが強くなりすぎたことに起因している」としてルイ十四世やナポレオン時代のフランス、フェリペ二世時代のスペインなどを例に出して説明します。

 「特定の一国だけが強くなりすぎたこと」とはただ単に軍備力だけではなく経済力や貿易関係も指します。他国との力関係が崩れてしまえば、それこそ東欧においてどこかの国が影響力を強めてしまって、その歪みが修正されないようであれば、いつか争いは起きてしまいます。

 だからこそマッキンダー勢力均衡を唱えました。

 これが『マッキンダー地政学』の結論でもあります。

 

5.マッキンダーの教養の深さ

 『マッキンダー地政学』の副題は「デモクラシーの理想と現実」です。

 一体これはどういう事なのでしょうか?

 

 マッキンダーは民主制であるアテネフィレンツェが機能したのは、住民が互いに知り合いっだった事、そして知的レベルにおいて差があまりなかった事を理由として挙げます。

 一方で現代は都市と地方の人口のアンバランスさ、隣人と話し合う機会の減少など、地方の固有の価値や面白みを失ってしまったとします。

 だららこそ、国家のなかの地域的なコミュニティを主な母体としなければならないとしたのです。それは生活を全体として見る目が養われるからです。

(家族というコミュニティの中にいると、自然と家族の中での自分の立ち位置や家族としてどうしていったらいいかを考えますよね。そういう事です)

 また、デモクラシーにおいては多数派が為政者を選ぶ権利を持つので、既得権はますます社会に根を下ろしてしまうと指摘しました。そして労働者側も資本家側も互いの利益の拡大に固執し、近視眼眼的になってしまうとも説きました。

 

 マッキンダー地政学の祖として有名ですが、地政学という名前はマッキンダー自身が付けたものではありません。マッキンダー自身はランドパワーや民主主義の欠点に加えて、南北問題や人的資本の組織の問題など、現代の国際政治学者が対処しなければならないほとんどの問題を観点に入れて、平和と言うものを探究していったのです。

 

6.現代に生きるマッキンダーの考え

 以下の文章が『マッキンダー地政学』には有ります。

 「東欧における領土の再編成にあたって安定を期するための条件は、国家群を二つではなく、三層のシステムに分けることである。すなわちドイツとロシアの間には複数の独立国家からなる中間の層があることが、どうしても必要である。」

 「だからこそ世界の諸国が一つの組織に融合された今、この世の地獄に代わる唯一のものとして国際連盟を支持する世の理想主義達は、その全神経を東欧における国境の適正な配分にそそいでもらいたのである。改めて言えば、すなわちロシアとドイツのあいだに、どちらからも支配されない一連の真の独立国家群から成る中間地帯を形成することによって、その目的は達成される。

 

 2014年から始まるクリミア危機、2022年時点のウクライナの状況など、マッキンダーの思考を手掛かりにすると少しは見えてくるものが有ると思います。