『言論の自由—アレオパヂティカー』ー真理と虚偽とを戦わせよー
1.『言論の自由(アレオパヂティカ)』とは?
『言論の自由(アレオパヂティカ)』は17世紀の詩人であるイギリス人ジョン・ミルトンが著した本です。ミルトンは『失楽園』で有名ですね。
ミルトンが生きた17世紀のイギリスはピューリタン革命、名誉革命と革命の時代です。
『言論の自由』は英国国教会に対して長老派が支配権を握った頃に書かれました。ミルトンはピューリタンの一派である長老派が、一旦は廃止した出版許可法を復活させたのを見て、長老派も英国国教会とその本質は同じであるとして、長老派の宗教・政治的支配から、宗教・言論的自由を保障するためにこの本を書きました。
(ミルトンはピューリタンの一派である水平派のクロムウェルを支持しました。)
2.ミルトンが否定した論点
ミルトンは出版許可法に対して4つの観点から批判・検証していきます。
1点め……出版許可法を制定した人々は、そう制定するだけに足る人物ではない。
2点め……書物の種類を問わず、一般に読書に関して如何に考えるべきか
3点め……出版許可法は主として不埒な、扇動的な、誹謗的な書物を禁止しようとしたものであるが、その目的には全く役立たない。
4点目……出版許可法は人々の既に知っている事柄に関する能力を妨げて、それを鈍化させ、さらに宗教的・世俗的両側面からなされるであろうところの発見を邪魔する。
以上の4点がミルトンが出版許可法に対して反論したポイントでした。
3.説明①
「出版許可法を制定した人々は、そう制定するだけに足る人物ではない。」
簡単にいえば、出版許可法を制定する人々は、善悪や真理の視点から出版許可法を制定するのではなく、統治するのに都合の良い本は出版を許可し、統治するのに不都合な本は出版を許可しないとしてしまうという事です。
4.説明②
「書物の種類を問わず、一般に読書に関して如何に考えるべきか」
ミルトンは確かに悪い書物が有ることを素直に認めます。その一方で、悪い書物にも利点があるとします。
その利点とは一体なんでしょうか。
それは悪い書物を読む事で、悪なるものとは一体何であるかを学べて、論破し、警戒し、例証する事にも繋がるというのです。
さらに最も真実なるものに速やかに到達するためには、色々な意見を知ってこれを比較する事が助けとなると考えたのです。
「悪の知識なくして、どこに選択する智慧があり、どこに差し支える節制があるか。悪徳とその持つあらゆる誘惑と外観的の快楽とを理解・考察し、しかも節欲し、しかも識別し、しかも真によりよきものを選ぶことのできる人こそ、真実の戦うキリスト教徒である。」
5.説明③
「出版許可法は主として不埒な、扇動的な、誹謗的な書物を禁止しようとしたものであるが、その目的には全く役立たない」
ミルトンはこれに対し、様々な理由を挙げます。ここでは3点紹介します。
まず、既に出版されている書物一つ一つを検閲するというのは余りにも大変で現実的ではないと言います。(ちなみに日本は年間7万冊以上の出版点数です。)
次にその書物を出版していいかを決める検閲官が、そもそも聡明かどうかは分からないと挙げます。確かに頭が悪い検閲官では、そもそも理解をしてくれない場合もあるし、判断がその検閲官の信条や育ち方などに影響されますので、絶対的な基準で判断するのは難しいですね。
最後に、出版許可法が意図する不埒な、扇動的な、誹謗的なものの取り締まりの対象はその目的から考えるに、書物に限らず、例えば娯楽や遊戯、音楽等を始めとする人間の楽しみに及ぶ事になってしまうが、それは常識的に考えていけない事だ、とします。
以上から本来、目的していた悪書の追放というものは出来ないと主張しました。
6.説明④
「出版許可法は人々の既に知っている事柄に関する能力を妨げて、それを鈍化させ、さらに宗教的・世俗的両側面からなされるであろうところの発見を邪魔する。」
ミルトンは神はアダムに理性を与えた時に選択の自由も与えたとします。何故なら理性とは選択に他ならないからです。(とミルトンは主張しました)
そしてそうでなければアダムは操り人形になってしまう。本当にそれでいいのだろうかと、アダムが罪を犯した事を理由に神の摂理を非難する人たちに向けて強く主張するのです。
「単に牧師がそう言うからとしか、長老の最高会議でそう決まったからというだけで、それ以外の理由は知らないで物事を信ずるならば、たとえ彼の信ずるところは真実であっても、なお彼の信じる真理そのものが異端となるのである」
「誰かにそう言われたから」と言うだけで何かを信じた場合、例えその何かが真実であったとしても、それは価値あるものではないとミルトンは叫び、人間の選択による心理の会得、智慧の獲得を尊重しました。
出版許可法により残った本が例え善本であったとしても、それは価値に値しないとしたのです。
7.宗教・思想の自由競争
以上のようにミルトンは言論の自由を守る事に徹します。
ミルトンの思想は以下の言葉に集約されます。
「真理と虚偽とを組打ちさせよ。自由な公開の勝負の場で真理が負けたためしを誰が知るか。」
ミルトンは真理への絶対的確信が有ったからこそ、あらゆる思想を認め、勝負させていく事こそが最善の道であると考えていたのです。