alhikma’s blog

知の世界へようこそ!

『海上権力史論』—海洋国家、日本の進む道とは—

 

版元ドットコムより

1.『海上権力史論』とは?

 『海上権力史論』とはアメリカ海軍の軍人、歴史家、戦略家であるアルフレッド・マハンが書いた本です。マハンはマッキンダーと並ぶ地政学の学者であり、マッキンダーランドパワーを重要視したのに対し、マハンはシーパワー、つまり海の戦力を重要視した人です。具体的には商船隊、海洋拠点や港、海軍力の拡大が重要だと考えました。

 こうしたマハンの考え方の影響を受けた人として、アメリカのセオドア・ルーズヴェルト、ドイツのヴィルヘルム二世、日本の秋山真之などがいます。

 

2.マハンがシーパワーを重要視した理由

 その理由として2点有ります。

 1点めが防衛の観点からです。海洋国家は周りが沿岸に囲まれているおかげで、国を守るためには海上で戦うだけで済みます。それに反して大陸国家では、陸伝いになっている隣国と緊張状態になりやすく、沿岸から攻められる可能性も考慮しなければなりません。基本的に海軍力に集中すれば良い海洋国家に比べて、大陸国家では戦力の集中がしにくいと考えたのです。

 日本の鎖国を考えると分かりやすいと思います。日本は海外に目を向ける必要が無く、安穏とした日々を過ごせていましたよね。

 2点めが歴史的経緯からです。過去の覇権国を調べてみると大航海時代をきっかけに海洋国家が植民地を得やすく、栄えやすいと考えました。その卑近な例は「太陽の沈まない国」として有名なスペイン帝国とイギリス帝国です。だからこそ、マハンは「世界の海を制するものが世界を制す」としました。そして、イギリス帝国の次の覇権国としてアメリカの海洋国家の大国として登場してくるだろうと予測しました。

アメリカは地政学的には半島、海洋国家としてみなされます。)

 

3.マハンの思想の展開

 マハンはただ単に海軍力としてのシーパワーではなく、商船隊や港なども重要しました。例えば、現在の日本の輸送に関して99.6%が海上輸送であり、残りの0.04%が航空輸送です。

 マハンの時代に比べると航空技術が発達している現在でも、海洋国家における輸送は基本的に海を通してであり、海の重要性が分かります。また、陸上輸送と比べて海上輸送ははるかに効率が良く、日本の超巨大コンテナ船一隻は、10tトラック約1万9千台または約貨物列車290編成分に当たります。

 こうした便利な海上輸送ですが、逆に考えれば、海上輸送を断たれてしまえば壊滅的な状況に陥ります。だからこそマハンはシーレーン、貿易や有事の際に戦略的重要性を持つ海上交通路を確保しなければならないとしました。

 この重大なシーレーンとしてはチョークポイントが有ります。チョークポイントとは戦略的重要性を持つ海上交通路の中でも、特に限定的な場所を指します。「ポイント」と名前が着けられている通り、点をイメージしてください。

 主なチョークポイントはスエズ運河パナマ運河ジブラルタル海峡、ホルムズ海峡、ベーリング海峡マラッカ海峡バシー海峡マゼラン海峡、バブ・エル・マンデル海峡、ダーダネルス海峡、ボスフォラス海峡などが有ります。基本的には海峡がほとんどです。というのも海峡は通路が狭くなっている関係上、そこの一点を抑えれば、自国にとって抑えやすく、他国にとっては船が通れなくできるからです。

 このチョークポイントを押さえるのが各国の基本方針でもあります。

 例えばジブラルタル海峡ジブラルタル海峡は大西洋と地中海を結ぶ重要な拠点です。ジブラルタル海峡はスペインとモロッコとの間の海峡ですが、イギリスはイベリア半島側にイギリス領ジブラルタル領を、スペインはモロッコ側にスペイン領セウタを保有しており、軍港として使っています。

 

4.日本にとっては?

 海洋国家である日本にとって重要視すべきチョークポイントは何でしょうか。

 それは主にホルムズ海峡、マラッカ海峡バシー海峡です。これら3つのチョークポイントは貿易、特に石油に関係しています。

 ホルムズ海峡はペルシア湾オマーン湾の間に位置する海峡であり、一日1700万バレルが行き交う場所です。

 また、マレー半島スマトラ島の間にあるマラッカ海峡は日本に向かう原油タンカーの9割近くが通過しています。ここは現在米海軍が抑えています。

 バシー海峡はフィリピンと台湾の間にある海峡です。マラッカ海峡を通った船が、通最短ルートはバシー海峡ですので、バシー海峡を通れなくなると、わざわざ遠回りすることになり、輸送費がかさみます。

 この三つは基本的には日本の生命線であり、ここを抑えられてしまえば、日本の資源は断たれてしまいしまいます。

 また、ホルムズ海峡、マラッカ海峡バシー海峡は基本的に中国を始めとする他の国と利害が重なっています。マラッカ・ディレンマのように中国がマラッカ海峡に抱える脆弱性は有名です。中国も日本と同様に原油輸入の8割がマラッカ海峡からのルートです。中国はエネルギー輸送ルートの多様化に躍起になって取り組んでいます。

 こうした状況の中で、日本は笑っていられることは出来ません。

 もし、マラッカ海峡を封鎖されてしまったら……。それは妄想ではなく、現実に可能性のある事なのです。こうした中で日本は自国の資源状況を鑑みて国際政治を渡り歩いていく必要が有るのではないでしょうか。